略奪ウエディング



契約が取れたその日の夜、課長の一声で飲み会が開かれた。
参加者の多さから片桐課長の人望の厚さが伺えた。

皆でぞろぞろと繁華街を歩き、中野くんが予約した店に流れ込む。

「ここは金沢の中でも指折りの焼き鳥屋なんですよ」

今回の契約を課長と二人三脚で勝ち取った中野くんが張り切って幹事を買って出た。

「へえ。楽しみだな」

課長は店内を見回しながら座敷の中央の位置に座る。
それを見た女性達が座敷の部屋に入った瞬間、課長のそばの席めがけて一斉にダーッと走り出した。

「私課長の隣!」

「ずるい!私よ!」

「うわ!何だ、君たちは!やめろって」
課長の恐怖に満ちた声が響く。

「中野、じゃま!どいて」

課長の隣にいた中野くんは一瞬にしてポイッと弾き出された。

「じゃまとは何だよ、お前ら!ひでぇな」

中野くんの声に反応する人はいない。

「うわーっ!やめろ!落ち着けって!」
課長の姿は見えなくなり声だけが聞こえる。

そんな様子を見ながら私と他の男性社員たちは入口付近で呆然としていた。
「早瀬さん、こっち座ろう」
声をかけられ私もそばの空いた場所に座った。
すったもんだをしている一団を無視して私と男性社員六人でテーブルを囲む。

「いやあ、すごい人気だな、片桐課長は」

そのうちの一人が言う。

「ほんと。俺らなんていてもいなくても同じみたいなもんだな」

「でも早瀬さんはいいの?戦いに参加しないのか」

急に話をふられて慌てて否定する。

「いえ!私は!興味ないですから」

「そうか。君みたいな子は貴重だな。俺たちが大事にしないといけないな」

その一言に皆が笑う。

私も笑いながら思っていた。
興味がないなんて嘘。本当は誰よりもきっと、課長を本気で思っている。
隣になんて座れない。気持ちが爆発してきっと呼吸すら苦しくなるから。


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