略奪ウエディング


「俺に興味がないところ悪いんだけど。ここに混ぜてくれない?」

私の後ろから声がしたかと思ったら、課長が私の隣に無理矢理入り込んできてドカッと座った。

な…!嘘、どうして!

私は信じられない思いで隣に座った課長を見た。

「あれ、課長、いいんですか、あっちは。主役じゃないすか」

「主役は中野だよ。まあ、あっちはあっちで楽しそうに勝手にやってるし。現に俺がいなくなってもまだ気付いてないだろ。隙間から逃げてきた。冗談じゃないよ」

おしぼりで手を拭きながら課長は言う。

私は身体をカチカチに固めたまま唖然としていた。
そんな私の視線に気付いて課長がこちらを見る。

「早瀬さん、ごめんね?ここにいてもいい?」

「あ…、は、はい」

課長は躊躇いながら返事をする私を見てぷっと吹き出した。

「あはは。大丈夫、取って食ったりはしないよ~」

不意打ちの至近距離での課長の笑顔。

ドキーン!と私の胸が何かで打たれたように震える。

いや、いけない。だ、だめよ。昨日お見合いしたばかりなんだから。
前向きに考えるって、決めたでしょ。お相手の東条さんにも不満に思うところなんてなかったんだから。

「早瀬さん?何か飲むか?取りあえずビールと…つまみだな」

メニューを私の前に差し出して課長が私の顔を覗きこむ。

「い、いやあの…っ」

もう課長のことは忘れるの。ドキドキしたりしちゃダメなの。
だけど…!この近さは、ないでしょ!

課長から漂う香りが私の心臓をハイスピードで動かしている。
た…倒れそう…!



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