略奪ウエディング


翌日。

今日は悠馬が茜さんと会う予定の日だ。
私は彼の部屋で彼を待っていた。

信じるだなんて強がったけれど、本当は行ってほしくはなかった。
昔の二人の関係を思うと、胸が張り裂けそうだった。

今になって、何の用事があるのだろう。

そこまで考えて、自分の頬をペチペチと叩いた。

「…あれ?梨乃、いたの」

その時、彼が部屋に入ってきた。

「いたのって…。いちゃだめなの…?」

彼の言い方に少し傷ついた。

「…あ、いや、そうじゃないよ」

悠馬は俯いた私を見て慌てる。
いやだ。私、面倒くさい。茜さんと会ってきた彼に拗ねてる。

私が顔を上げないので彼は黙り込んだ。

どうしよう。私の態度にきっと呆れたんだ。でも、素直になれない。どうしようもない。

会っていいと言ったのは私なのに。

「もう…茜と二人では会わないよ?」

「…ごめんなさい。私…」

俯く私の頭上で彼がクスッと笑うのが聞こえた。私は顔を上げて彼を見た。

「拗ねてるの?妬いたの?」

悠馬は楽しそうに笑いながら言う。

「ふふっ。やっぱりね。昨日から無理していたんだろ」

「あの、いえ、…そうじゃ…」

私は首を横に振った。

「いいんだよ。気付いてた。無理してるって。素直にそう言えばいいのに。
会って受け取るものがあっただけだから本当は宅配便でもよかったんだ。
でも梨乃が頑張って強がるから、その気持ちを無駄にしちゃ可哀想かなって思って会ってきた」

「…意地悪…っ…」

私は泣き出してしまった。
そんな私を抱きしめる、優しい手。失いたくない。
こんな私に呆れないでね?いつまでもこうして抱きしめてね?私は心の中で叫んでいた。

悠馬は私が泣き止むまで、クスクス笑いながら抱きしめていてくれた。




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