略奪ウエディング
「あ~、課長。貴重な優しい子まで毒牙にかけないでもらいたいなぁ。俺たち寂しいんですから。せめて早瀬に慰めてもらわないとやってらんないっすよ」
「ばか。お前たちだけだと危険すぎるだろ。俺が責任持って早瀬さんを守らないといけないんだよ」
そう話しながら課長の顔がふっと私から離れた。
ホッとしながらも、また別のドキドキが襲ってきていた。
守る…?そんな言い方…。
分かっている。私を部下として見た発言だと。でも、単純な私の胸は簡単にはそう割り切れない。
「ね、早瀬さん。君みたいな控えめな子が俺は好きなんだよ。肉食系の子はどうもね…。君みたいな子とゆっくり飲みたいんだ」
「いえ、私はそんな」
緊張で、背中から嫌な汗が出てくる。
「じゃあ課長は、課の中では早瀬が一番のお気に入りですか?」
ぎゃああ!何を聞いているのよ!もう、心臓が持たないわ!
「そうだなー。早瀬さんがやっぱ一番かなぁ。可愛いしね?」
そう言って再び私の方を見た課長の顔を、もう見ることはできなかった。
私は真っ赤になって俯いていた。
「早瀬さん?」
「あーあ。また課長に持ってかれちゃった。早瀬の心までもを奪いましたね~。罪~!俺たち悲しーっ」
はやし立てる一団に課長は急に声色を変える。
「おい。もういいだろ。彼女は俺に興味はないんだから。そんなことを言われたら困るだろうが」
全員が黙ったその瞬間、向こうから課長を呼ぶ声がした。
「片桐課長!どこ!?いないじゃん!課長~!」
「やべ。ばれた」
そう言って課長はバタッとテーブルに腕を乗せて顔を伏せた。