略奪ウエディング
時計を見ると六時半だった。
今頃梨乃はどうしているだろう。自分の置かれた状況に、慌てふためいているのだろうか。
俺はそんな彼女の様子を想像して、一人クスクスと笑う。
コーヒーを配りながら戻ってきた矢崎がそんな俺を見てニヤニヤしている。
「課長みんなありがとうございますって。ところで何をそんなに喜んでいるんです~?やらし~」
俺は笑みを消して彼女を見る。
「やらしくない。喜んでない」
「ぎゃはは。課長も梨乃にかかったら形無しですね。後で会ったとき、どんな顔をするのかしら。写メらせていただきます」
お釣りを俺に手渡しながら矢崎は楽しそうにおどける。
「やめろ。ばら撒くつもりだろ」
「ばら撒くだなんて、いやだわ。皆にエリート課長の実態を伝えるだけですよ」
「やめろ。冗談に聞こえないぞ」
「あら、本気ですもの」
言い捨てて逃げる彼女を、眉をしかめて見る。
だが。後で会ったとき。
きっと俺は矢崎の言う通り、形無しになるんだろうな。自分でもそう思う。
君の美しさが、俺のポーカーフェイスを容易く破るだろうから。