略奪ウエディング


***

課の全員で社屋の正面玄関ロビーの階段の下に立って、階段の上を眺めながら待つ。

俺は皆を見渡した。

タキシード姿のアカマメが緊張している。
礼服の牧野が、中野たちと話しながら笑っている。
矢崎は元気な彼女らしい黄色のパーティドレスを着て、髪を巻いている。

これから起こる出来事が、どうか彼女を幸せで包んでほしい。
これまでに感じた罪悪感や、不安を、どうか俺にすべて預けてほしい。

これからの君の人生を、俺に守らせてほしい。

君とずっと、笑っていたい。

その時。


歓声が沸き起こり俺は階段を見上げた。

純白のウエディングドレスでその細い身体を包み、梨乃が俺を見下ろしている。

「きゃー!梨乃!きれい!」
矢崎が涙ながらに叫ぶ。

俺は目を細めて梨乃を見つめていた。
彼女の目にも、涙が溢れている。

拍手と歓声の中、梨乃は一歩ずつロビーの階段を降り始めた。

俺に向かって真っ直ぐに歩いてくる。

彼女の頭上に輝くティアラが、薄いベールを押さえて垂れ下がっているいるせいか、彼女の顔がよく見えない。
…いや。違う。俺も感動で泣きたい心境になっているからだ。ぼやける梨乃の顔が、彼女が近付くにつれて段々とはっきりしてくる。

涙を堪えて微かに微笑む彼女の顔が目の前にくる。

「悠馬…」

「綺麗だ」

言葉なんかいらない。ただ、君を見つめるだけで精一杯だ。

俺の目の前で俺を見上げる彼女の美しさに、俺はそれっきり何も言えなくなってしまった。



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