略奪ウエディング



私は課長の後頭部を見ていた。
…ふわふわ。柔らかそうで細い、その絹のような髪に触れたいと心から思った。

綺麗で、優しくて、仕事もできる。そんな課長の欠点なんて、長い時間をかけていくら探しても見つからなかった。嫌いになれる要素なんて一つもない。
彼に心を奪われた女は、その想いを持て余す。受け入れられなくば、自ら断ち切るしか手段はないのだ。

私はそんな恐怖から、逃げだすことばかりを考えている。
だけど課長に気持ちを奪われたまま、他の誰かを愛せるのだろうか。

課長が、もそっと微かに顔を上げた。
ぼんやりと見ていた私は驚いて、課長から目を逸らすタイミングを逃した。

目だけを前髪と腕の隙間からキョロリとこちらに向けて課長は小声で言った。

「ごめんな。可愛いなんて言って」

…もう、だめだ。私はこの人から逃れられない。
もし方法があるとするならばただ一つ。想いを告げて、達成感を感じること。それは気持ちを伝えて、はっきりと振られることだ。苦しく悲しい気持ちが襲うことを恐れて立ち止まっていては、何も変えることはできないから。
結婚するまでに気持ちを打ち明けなくてはいけない。その時強く、そう思った。





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