略奪ウエディング
課長がはっきりとそう言い切った後、辺りは静まり返った。
店の中にいたたくさんの人たちが私たちを見ている。

「課長!顔を上げてください」

私は課長の身体を起こそうと寄り添った。

「ダメだ。許してもらえるまでこのまま動かない」

「課長!」

悲しくて、切なくて、仕方がなかった。
愛する人にこんなことをさせている。
私の愚かさが招いた結果だ。

どうしたらいいの?課長…!
私は混乱して顔を覆った。身体がばらばらに引き裂かれてしまうような気持ちになる。
自分が歯がゆくて、憎らしく思えた。課長のそばにいる資格なんて、私にはもうないわ。

「東条さん、お願いします。俺を殴ってもいいです。あなたの存在を知りながら、彼女にプロポーズをしました。許して欲しいなんて言いません」

「やめて…、もう、やめて。課長、ごめんなさい。東条さん、ごめんなさい。私が悪いの。ずっと課長を想っていたんです。私を殴ってください」

私は課長の隣にペタリと座り込むと子供のように泣きじゃくった。
悲しくて、どうにかなりそうだった。

――「…はは…っ。あははは」

え?

笑い声が聞こえて私たちはそっと顔を上げた。


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