略奪ウエディング
東条さんがこちらを見て笑っている。

「…え?」

唖然とする私と課長に東条さんは言った。

「そうか。いいよ。婚約破棄してあげるよ」

「え、本当ですか」

課長が嬉しそうに言う。

「うん。実はさ、本当はちょっとな~って思ってたんだよね。お見合いだから親の付き合いがあってこっちからは断れなかったんだよ。梨乃ちゃんのほうから断ってくれたらよかったのに、そのまま話が進んでしまうからさ~」

「は?」

課長が正座のままで驚きながら東条さんを見上げている。

「梨乃ちゃんって大人しすぎてつまんない子だなって思ってたからちょうど良かったよ。あんた、変わってるね。失礼だけど、こんな子がタイプだなんてちょっと信じられないな。一緒にいても面白くないしさ。まあ見た目と胸だけはいい感じだと思ったけどね~。何だかノリも悪いしね。
あ、ごめんね梨乃ちゃん。色々言っちゃって」

私と課長は驚きで言葉も出なかった。
優しくて、紳士的な東条さんのイメージがガラガラと音を立てて崩れていった。

私…この人と結婚する予定だったの?
固まる私たちを他所に彼はペラペラと話し続ける。

「本当ならば俺の立場って、慰謝料?みたいなの貰えるかも、だけど、まあ今回は俺も助かったし一石二鳥ってことで見逃しておくわ。本当にあんたみたいな物好きが現れてくれてよかったよ。親にはお互いにうまく…」



< 34 / 164 >

この作品をシェア

pagetop