略奪ウエディング
課長が突然、スッと今度は立ち上がった。

一歩、二歩、とゆっくり歩いて東条さんの方へと向かう。

「な…、何だよ」

課長から見下ろされて東条さんはようやく黙った。

ギロリと東条さんを睨み付ける。
綺麗な瞳は、今は怒りの輝きを帯びてぎらついている。

「それ以上言ったら…その口、…もう聞けないようにするけど?」

「は、はあ?何マジになってんの。冗談だろうが」

課長の気迫に東条さんはだんだんと青ざめていく。

私は、まだ、東条さんの話が信じられなくて、ショックで呆然としていた。

「俺の中で認められる冗談は、笑えるものだけなんだ。君のはおもしろくない」

「何、訳の分からないこと…」

「せっかく殴られる覚悟はできていたのに。…まさかこんな風に逆になるとは思わなかった」

「お、おい…」

課長は手をボキボキッと鳴らした。

その音に東条さんは後ずさり、逃げだす。

「う、うわわわ…」

「待て!」

追いかけようとした課長の腰に私は咄嗟にギュッとしがみついた。



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