略奪ウエディング
「まさか…」

スミレは私たちを交互に見ながら瞳孔が開き切っているかのような大きな目をした。

「梨乃、あんた…!そんな!課長は観賞用だってあれほど言ったのに」

「観賞?何の話かよく分からないけど。実は婚約したんだ、早瀬と」

「は!?」

「課長!!」

口をパクパクさせるスミレと、驚きで動きの止まった私を見て、課長は「あれ?どうしたの」と平然とした様子で言った。

その直後、課にいた全ての人が大きな声で「えーーー!!!」と叫んだ。

課長は課を見渡して周りの反応のすごさに再び「あれ?なんで?変なこと言ったか?」と言った。


――「もう、いきなり信じられないですよ」

私は公園のベンチに課長と並んで座りながら言った。
昨夜の雪は、すっかり溶け今はもう跡形もなかった。柔らかい冬の日射しに照らされた課長の髪は金色に染まり、冷たい風に晒されている。

「いいじゃない、どうせ知られるんだし」

買ってきた焼きたてのパンを頬張りながら何でもないとでも言うように課長は言う。
今日は晴れたから外にいたいと言う課長に合わせて会社のそばの公園に落ち着いた。
課長は私の方を見ようともしないで目の前に広がる池を眺めている。

「寒いけどやっぱ外はいいよね。気持ちがいいな~。こっちは本当に雨の日が多いからさ」
そう言って軽く伸びをする。

…やっぱりそうだ。朝からずっと思っていた。
「課長は…余裕がありますね」

「え?何」
私の一言に課長は初めて私の方を向いた。伸ばした身体をゆっくり元に戻しながら。

「私なんて…、ドキドキして、信じられなくて。私の勘違いだったらどうしようとか…考えてしまって」

課長は二人の間にあったパンとコーヒーをスッと反対側に置き直した。

「余裕…あるように見えた?」

「え…」

私が顔を上げた瞬間、グッと唇を塞がれた。

「んんっ!?」

私の身体をしっかりと腕に抱いて課長は激しいキスを私に浴びせる。





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