略奪ウエディング


「課長?どうしてここに…?飲み会は」

私はハンカチで涙を拭き取ると、課長に訊ねた。

「あ…、俺…。失礼します。じゃあな、早瀬」

牧野くんは課長の真横を通って部屋を出て行った。
と同時に課長が私の方へと歩いてくる。

「飲み会は挨拶だけして出てきた。梨乃がいないことに気付いたから」

それだけ言うと課長は私の目の前で私をジッと見ながら黙った。

「ごめんなさい…。気乗りしなくて。それに報告書がまだ残ってたので」

私は沈黙に耐え切れなくて、課長から目を逸らし椅子に座った。
そのまま黙って入力をし始める。

気まずい沈黙が続きどういう態度を取ればよいか分からなかった。

私の後ろに立つ課長の表情は見えなかったけれど動く気配がしなかったので彼がそのまま立ち尽くしているということだけは分かった。

私は少々拗ねているのかも知れない。
先の見えない彼の気持ちを計りかねるのに疲れていた。
勝手に考えているくせに子供みたいな態度をみせる自分。そんな心のうちを課長に知られたくはなかった。


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