略奪ウエディング
…あ…。
どちらからともなく重なる唇。
課長にキスされたなら、私は何も考えられなくなってしまう。
ダメ。
ここは会社なのに。
誰が来るか分からないのに。
一生懸命に頭でそんなことを思うが離せるわけがない。
柔らかなその唇を何度も啄ばんで、溶け込むように彼の中に入り込んでいく。
身体の芯から蕩けていく感覚。
それが私をゆっくりと麻痺させていく。
このままずっと、課長を独り占めしていたい。
どうかいつまでも、私の元を離れていかないで。
薄く目を開いて課長を見る。
長い睫毛が揺れるのを見て、そこにも触れたくなる。
私は課長の頬を両手で包むと、そっと唇を離した。
大きな瞳が私を捉えて輝く。我慢できなくなってそのまま課長の目に唇を寄せる。
するとゆっくりとその目が閉じられていく。瞼にそっと口づける。
欲しい。もっと、あなたでこの身をいっぱいにしたい。
触れるほどに欲しくなり、さらに足りなくなっていく。媚薬のように。
「…俺の部屋、…来る?」
誘われて胸が高鳴る。
とうとう、あなたのものになれる。
ずっと前から願っていた。あなたを見つめながら、その胸の中でうち震える幸せを想像して一人で身悶えていた。
私は課長にぶら下がるように首に手を回し、彼を抱きしめながら言う。
「お願い。連れて行ってください…」
はやる胸の鼓動が課長にもきっと伝わっている。
あなたを早く全身で感じたい。
きっと課長も同じ気持ちでいるのだと信じて疑わなかった。