略奪ウエディング

――「いいわよね~、片桐課長。エリート、独身、二十七歳!期待のエース!欠点なんてなさそう」

「あら、そんな人に限って重大な秘密があったりするのよ。例えば…、そうね、…男しか愛せないとか!?」

「いや~!もったいない!そんなこと許せないわ」

その日のお昼は、彼の話題で持ちきりだった。
私は賑やかに噂する同僚の話を笑って聞きながらお弁当を食べていた。

――「…一応、恋愛対象は女性だけど?」

背後から聞こえてきた声に、私たちは驚き一斉に振り返った。

「きゃ…!!」

皆で声にならない声を上げ、話しかけた声の主を見上げた。

その視線の先には、片桐課長本人がニコニコと私達を見下ろしている。

「女性の会話は逸れると怖いけれど、なかなか興味深いね。あと二、三日したら俺は立派な同性愛者だと本社中の噂になるだろうな」

「す、すみません!」

私たちはそろって謝罪した。

「あははは。別に怒ってないよ。ここの女性社員は皆お行儀がいいね。横浜支社の子達なら一言、『課長、うざっ』でバッサリだよ」

「ええ!そうなんですか?」

同期のスミレが大袈裟に驚いた声を出す。

「ああ。ま、そんな扱いを受けてきたから恋愛に疎いのかな。まあここでのホモ疑惑にも驚いたけどね」

「やだ、冗談ですよ~」

スミレの声のトーンがいつもとは違う。
皆を見回すと、誰もがウットリと頬を染めて課長を見つめている。

そうよね。皆そうなるわよね。私だって胸がバクバク鳴ってまともに彼を見ることすらできない。
こんな素敵な人に、もしも愛されたなら…、一体世界はどんな風に私の目に映るのだろう。

そんな事を考えながら私は一人、興味のない振りをして食事を続けていた。

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