恋するほど   熱くなる
θ.もう一人のパートナー
「静かな所がいいかも。カナダの山奥とか。」

「美莉、熊が出没するような所は選ばないでほしい。」

「にぎやかでない所ならどこでもいいの。」

「ニュージーランドはどお?」

「これは休暇なの?それともお仕事?」

「両方だ。アルバム用の詩をオファーされたんだ。」

「わかった。」

僕はツアーにはオプションを一切入れず別荘だけを借りた。

森や湖に囲まれたリゾート地だ。

美莉と二人で過ごすのは初めてだった。

期間は二週間だ。

彼女の詩がどんな出来になるかは本人にもまだわからないことだ。

南半球は夏だった。

「美莉、暑いからって湖にばかりつかるなよ。身体を冷やすな。」

「は~い。」

湖畔をぐるりと幾つもの別荘が取り囲んでいた。

湖の水は気持ち良かった。

一日一回は泳いだ。

荒木さんはパソコンに向かって仕事中だ。

私は身体を水に浮かべて空をながめた。

空はなぜあんなに青いのかしらと思った。

そして卓巳の顔が頭をよぎった。

『会えなくても美莉の中にいる僕を忘れるな。』と言っていたのを思い出した。

「卓巳、私の詩に感激させてあげる。」

私は着替えた後、ノートにすらすらと書き綴っていった。

「ちょっと長すぎるかしら?こんな詩があってもいいわね。」

ピンポン、エントランスのベルが鳴った。

荒木さんが出た。

何やら話し声が聞こえてきた。

「美莉、ストーン氏が今夜パーティーを催すらしいよ。僕達も招待された。」

「ストーンさんて、どなた?」

テラスから湖のずっと向こう岸にひときわ大きな別荘が見えた。

「あそこらしい。行ってみよう。ラフな服装でいいと言っていたよ。」

私は少し楽しみだった。

どんな人達がパーティーに来るのか楽しみだった。

荒木さんと車で出掛けた。

夜といってもまだ明るかった。

二十人くらいが招待されたようだ。

日本人は私達だけだった。

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