異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
警護をしている近衛兵に一礼をしてから、ドアをノックして声を掛けると、案の定バサバサと音が聞こえた。
『ちょっとだけ待って』
ドア越しにパタパタと音がしてしばらくしてから、中からドアが開いた。
「ユズ様、どうぞ。私どもはこれで失礼させていただきますので、ごゆっくり……」
室内から出てきたのは侍従長と筆頭秘書官で、予想通り彼らはあたしに背中を向けようとしない。そこに何か(仕事)を隠し持っているのは明らかだってば。
着いてきたキキにもう下がる様に頼むと『頑張ってね!』なんて妙な励ましをされた。
いったい何を頑張るんですか! 何を!!
ツッコミしたかったけどガマンして、木製のワゴンを押しながらティオンに声を掛ける。
「こんな夜遅くごめんね。お腹が空いたと思って、夜食作ってみたんだ」
「夜食?」
「うん。ティオン、夕食あんまり量がなかったでしょう? だから、ね」
夕食をご馳走になった時、ティオンはがっつくあたしに笑いながら自分の分を分けてくれたんだよね。だから、申し訳なく思って。
「そんなこと気にしなくてもいいのに。でも、せっかくだからいただくよ。ありがとう」
「久しぶりに焼いたからあんまり自信はないんだけど……」
ケトルからお湯をポットに移してお茶を淹れる。このお菓子にはよく合うブレンドで、ふんわりした香ばしい香り。
焼きたてのそれをお皿に取り分けてお茶とともにティオンのテーブルに置くと、彼は驚いたのか目を丸くする。
「これ……」
「うん、抹茶を使ったスコーンだよ」
綺麗な緑色のスコーンを眺めたティオンは、それを手にして嘆息する。
「僕の出来たばかりの緑茶を使ったのか。まったく……君には驚かされてばかりだな」