雪恋ふ花 -Snow Drop-
夜、宿のこたつで温まりながら、春人がぽつりと言った。
「パラレル、滑れるようになって良かったね」
それは心底、喜んでくれている言い方だった。
「うん……」
珠はさみしさを押し殺して、精一杯元気に返事をする。
しばらく沈黙が続き、春人がとつとつと語り始めた。
「他人事と思えなかったんだ。あの日、一人で置き去りにされてる珠ちゃんを見て」
「えっ?」
「俺も置いてかれたことあるから、このスキー場で」
「ええっ、どういうこと? だって、春さん、スキー上手じゃない」
「これでも、必死で練習したんだよ」
大学時代、春人は友達グループとスキーに来て、ほとんど滑れず、全くついて行くことができなかった。
そんな足手まといの春人を残して、みんなはさっさと行ってしまい、やっとの思いで一人で下までたどり着いたのだ。
転んで起き上がれなくなった時に助けてくれた、通りすがりの見知らぬスキーヤーへの感謝の気持ちは今も忘れない。
だから、自分もできる限り、困っている人がいたら助けようと思ってきた。
「でも、春さん、ここが好きだって」
「うん。1人でずっと通って、スクール入って、技術を磨いた。そのうちに、嫌な思い出が楽しい思い出に変わっていったんだ。おいしいお店もいっぱい見つけたしね。何より、景色が最高だし」
「だから、”嫌いになってほしくない”だったんだ。初めて会った日」
「そう」