雪恋ふ花 -Snow Drop-
春人が案内したのは、ゲレンデの外にある、古めかしい蕎麦屋だった。
昼時分を過ぎていたので、店の中はすいていた。
「何でもうまいけど、おすすめは山菜蕎麦かな」
「じゃあ、私もそれ」
さすがは蕎麦の名産地。
コシがあって、本格的な味だった。
山菜ももちろん地元で取れたものだ。
「雪、どうでした?」
「ああ、いい雪だったよ。ここはいつでもパウダースノーだからな」
「飯食ったら、ちょっと早いけど、宿に帰るか?」
「えっ?」
「友達と連絡つかないんだろ」
「はい」
蕎麦を食べ終わると、春人はさっさと二人分のおぜんざいを注文した。
「甘いもの、好きなんですか?」
「普段はそんなに食べないけど、ここのぜんざいは最高なんだ。蕎麦より、そっちが目当てって言ってもいいくらいだ」
「ありがとう」
ふいに、珠が言った。
「えっ?」
春人は意味が分からず、不思議そうな顔をする。
「春さんって、本当にいい人ですね」
「はあっ?」
「初めて会って、迷惑かけたのに、おいしいお店にわざわざ連れてきてくれて」
「いや……。嫌いになってほしくないから」
「何を?」
「ここ」
「……」
「俺、好きなんだよね、このスキー場。だから、嫌な思い出にしてほしくないんだ」
その瞬間、珠は涙がこぼれそうになるのを必死でこらえていた。
知らない所で、一人ぼっちで、心細くて、そんな時にこんなふうに無条件に優しくされたら、どうしていいかわからなくなる。