――ごめんなさい。
老舗の呉服屋を営む宝来(ほうらい)家。
琴葉(ことは)はそこで家族に虐げられて育った。
幼い頃から他人のような扱いをされた彼女は、
唯一、自分に優しくしてくれた少年に恋をした。
彼の名前は葛木保名(かつらぎやすな)。
明治時代から続く和菓子屋の御曹司で――
――妹の婚約者でもある。
しかし、妹の我儘によって
結婚式当日に花嫁の身代わりを務めることが決まり、
琴葉は初恋の保名の妻となった。
「まさか、こんな形で騙されると思わなかったな」
妻となったその夜、保名は琴葉に言い捨てた。
家族が吹き込んだ嘘。
琴葉が妹の結婚を妬んで、
花嫁を入れ替わったことになっていたのだ。
「子どもができたら離婚する。
俺に必要なのは後継ぎだけで、素行不良の妻はいらない」
今も恋心を抱く相手からの冷たく悲しい言葉。
傷付けられてもなお、琴葉はたった一度、
彼に与えられた優しさを忘れられなくて……。
「ちゃんと償うまで、手は出さずにいようと思ったんだ。
好きにする資格なんか、俺にないと思ったから。
でもな、おまえがそういう態度ばっかり取ると、
俺だってきついんだぞ」
やがて誤解が解けると、
これまでの冷たい夫婦生活が嘘のように変化し……。
「そうやって一生笑ってろ。……その方がかわいいから」
これは身代わり花嫁の不幸な結婚。
……の、はずだった物語。
- あらすじ
家族にいじめられて育った琴葉は、妹の身代わりとして保名と結婚することになってしまう。初恋の人との結婚を幸せに思いながらも、罪悪感と罪の意識で苦しむ琴葉。輪をかけるように、琴葉に騙されていると誤解した保名から冷たく接せられてしまう。しかしやがて誤解が解けると、保名の態度は一変し……。「今度はちゃんとベッドでしよう。いつ気絶してもいいようにな」果たして身代わり花嫁は本当の意味で幸せになれるのか……。