調導師 ~眠りし龍の嘆き~
そんな様子の夫を気遣うように支えて部屋から出て行く母。

一瞬投げかけられた母の目には、謝罪の色があった。

次第に落ち着きを取り戻す重鎮達。

そして、おもむろに妻の亡骸を抱える。

「何をするっ」

黙って持ち出そうとする重鎮達を睨む。

「外に知られるわけにはいかない。
こちらで処分する」
「ふざけるなっ。
触るなっ。
やめろっ。
離せっ。
待てっ」
「お父様っ!!」

妻を抱えて持ち出そうとする重鎮達に追いすがるように手を伸ばす。

そんな俺の身体を後ろから両腕で抱きとめる娘。

「離すんだっ愛理っ。
待てっ。
どこへ連れて行くっ!!」
「お前に教える必要はない」
「っ!!」
「お父様っ!!
俺の前に回り込んで瞳をあわせるように真っ直ぐに見つめる。

「落ち着いてくださいっ。
お父様にこれ以上何かあったらどうするのですっ。
感情に流されないでっ」

懇願するように。

宥めるように。

娘の言葉だと思うと胸に突き刺さる。

「ごめんなさいっ。
ごめんなさいっ。
助けられなくて…っ。
お父様。
軽蔑なさったでしょ?
わたくし、お父様さえ無事ならばと思ってしまった。
亡くしたお父様の大切な方の事をなかったように…。
ごめんなさいっ。
でも、分かってください。
わたくしは一族の者達とは違う。
お願い……。
嫌いにならないで…」

涙ながらに訴えられる。

恥じるように下を向いて…。

嫌われたくないと言う。

「…愛理……。
嫌わない。
お前を嫌う事なんてするはずがない。
恥じなくていい。
お前は俺を守ってくれた。
俺を優先してくれた。
ありがとう…」

抱き寄せる。

すまない。

娘にこんな想いをさせるとは…。

何よりの宝。

こんなにも想ってくれる娘がまだいる。



なぁ。

奈津絵。

幸せだな。

お前を救えなかったことを後悔してくれている。

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