調導師 ~眠りし龍の嘆き~
お前は知らない。

こんな娘が俺にいること。

後ろめたく思う。

けれど誇りに思う。

お前に会わせたかった。

きっと話しも合っただろう。

本当の親子のようになれたかもしれない。

すまない。

奈津絵。

お前の死を嘆く事ができない。

悲しみは心にあるけれど、今は…。

娘が守ってくれたこの命を抱えて生きていかなくては。

お前以外にも守らなくてはいけない者がいる。

嘆き続けることができない。

すまない。

いつも想う。

だから、許してくれ。

必ず迎えにいくから。

そして、墓は兄の横に。

ゆるしてくれ。



「お逃げください。
屋敷から出るのです。
慎太郎が案内いたします。
今は生き延びる事をお考えください」

真摯なまなざし。

今でははく、未来を考えてくれている。

本当に案じてくれている。

ゆっくりと目を閉じて心を抑える。

叫び出したくなる想いを鎮める。

「……わかった…」

安堵するように肩の力が抜ける娘の姿。

この想いに応えなくては。

生き延びて、先を見なくては。

手を引かれて部屋をでる。

血に染まった服を着替えるように部屋に案内される。

真新しい服に着替え終わると、外には慎太郎と娘が待っていた。

「これより先、慎太郎が案内いたします。
くれぐれもお気をつけて。
少しの間は、住んでいらした家にも職場にも近寄られませんように。
必ずまたいつの日にかお会いいたしましょう」
「ああ。
世話になった。
ありがとう」

娘を誇りに思う。

そして感謝する。

「頼みますよ慎太郎」
「心配ない。
誰にも見られずに外へ連れていく」

今まで見たどの表情よりも人間らしい笑みで頷きながら答える慎太郎。

そして、部屋を後にする。
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