調導師 ~眠りし龍の嘆き~
背中に娘の視線を感じる。

必ずまた会おう。

そう背で応えて静かに慎太郎を追う。

生き延びる為に。

準備を整え、もう一度ここに戻る為に。




本当に誰にも咎められず、出会わずに外に出た。

不思議なくらい簡単に。

「愛理様からの伝言だ。
『お子様の事はお任せください。
安全を保証いたします。
いつか外に出す事もできるでしょう。
その時までお預かりいたします』
それと、これを渡すように言われた」

渡されたのは、少し重みのある風呂敷包み。

そっと受け取って抱え持つ。

「これは…?」
「当面の資金と、潜伏先に良い場所などを書いた資料だ」

こともなげに言われ、包みを見る。

「それで生き延びろ。
あらゆる対策を立ててから、対抗するなりなんなりするといい。
協力は惜しまない。
……お前は嫌いじゃないから……」

子どもらしい所もある。

目元が緩む。

照れたように俯いてしまった慎太郎。

可愛らしい。

「さっさと行け」

ぶっきらぼうな言い方。

けれど、その中には優しさを感じる。

「愛理を頼む」

慎太郎にならば愛理を任せられる。

きっと守ってくれる。

一言、言い置いて歩き出す。

決意を胸に。

必ず戻ってくる。



それから数年。

お金と共に受け取った資料を参考に密かに生活した。

顔も整形した。

ほんの少し手を入れるだけで別人のようになった。

資料の中には、裏社会に通じる場所も記されていた。

そこで名前を変え、戸籍をごまかした。

手続きには金がいったが、問題ではなかった。

四十にさしかかろうという頃。

慎太郎と連絡を取った。

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