調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「顔を変えたのか……」
「ん?
変か?」
「いや。
少し年老いたな。
年齢が分からない。
性格も少し変わったように感じる」
「うむ。
少しな」

明らかな変貌に驚いた様子。

慎太郎も成長した。

印象は更に大人っぽくなった。

「準備は整った。
一族に潜りこんで、時を待つ。
だが、どうしたものかとな…」
「今も医者を続けているのか?」
「?もちろん」
「なら問題ない。
調度、今まで一族の侍医だった者が隠居した。
侍医として入ればいい。
私が外で見つけてきたと言えば大丈夫だ」
「っそうか。
なら、早速頼む」
「よし。
先ず、愛理様に報告する。
明日またここで同じ時間に会おう」
「わかった」

約束をして別れる。

すべて関わった場所を引き払い、準備を済ませる。

最後に住んでいた部屋で荷物をまとめ、鏡の前へ座る。

変わってしまった自身の顔。

少し痩せて全体の印象も変わった。

目を閉じる。

明日から始まる生活を思って。

別人でなくてはならない。

宝堂武はもう存在しない。

妻と共に眠った事にした。

今いるのは永久清十郎。

五十代前半の容貌。

苗字は大切な言葉を選んだ。

大切な人達が悲しみと共に刻んできた言葉。

忘れないように戒めを込めて。

名前は、いつまでも闇に染まらない『清』をつけて。

それらしい名前を当てた。

「奈津絵……藤武………兄さん…」

犠牲になった大切な人達。

明日だ。

やっと戻る事ができる。

そしてゆっくりと眠りにつく。

明日を思って…。



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