調導師 ~眠りし龍の嘆き~
改まって言う娘の様子にただならぬものを感じる。

「御祖父様ですわ。
前の侍医の話しによると、もう手の施しようがないとか。
……診ていただけますか?
お父様にとっては憎むべき仇。
わたくしも承知しております……。
ですが、一目診るだけでも……」
「……わかった。
案内してくれ」

久しぶりに見た父は、やつれた姿だった。

部屋には眠る父以外誰もいない。

そっと横に座る。

弱った者特有の気配が部屋を満たしている。

目を覚ます様子はない。

そっと脈をとる。

呼吸音を聴き、体温を指で触れて確かめる。

「どうですの?」
「……今日、明日が……」

ここまで弱った状態では、手の施しようがない。

今から香や薬を調合したとしても無理だ。

ふっと目を細く開ける父。

その様子を見下ろす。

感情はない。

親と言うよりも一人の患者としか思えない。

「御祖父様。
ご気分はいかがです?」

そっと語りかける娘。

「あい……りか……。
悪いとは……あまり感じないが…」

そう答えてこちらに視線を向ける。

「?医者か……?」
「ええ。
前任の侍医が隠居いたしましたので、今日から新しく来ていただいたのです。
永久清十郎先生ですわ」
「よろしくお願いいたします」

他人のように。

一人の患者へ挨拶するように。

「そ……ぅか……」

そう納得したように答え、また眠りにつく。

そっと立ち上がり部屋を出る。

無言で傘の間へ戻る。

長い間沈黙が流れた。

最初に沈黙を破ったのは娘だった。

「……大丈夫ですか?
気を落とされましたか?」
「いや。
あの人の息子をやってきて、初めてあんな姿を見たなと思ってな…。
親子とは名ばかりの存在だったが、感慨深いものだ。
ここ数年。
妻の仇を討とうと生きてきた。
それでこの事態。
どこにこの感情を持っていくべきかと思ってな」
「……わたくしもここ数年、一族の事について調べました。
そこで分かったことがございます。
あの刀の事ですわ」
「刀……?」

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