調導師 ~眠りし龍の嘆き~
母も絶句してしまう。

涙を必死でこらえている。

そうか。

母はちゃんと愛していたのか。

そうとは見えなくても、いつも側で支える母の姿があった。

そこに愛はあったのか……。

苦しそうな父の姿。

そこに威厳に満ちた、かつての父はいない。

ただ静かに死を前にした老人が横たわっている。

膝に置いた拳を強く握る。

無意識に。

唇を噛み締める。

優しさなんてなかった。

いつも上から押さえつけて。

息子の存在すら父の中にはなかったのかもしれない。

ただ、たまに思い出すだけ。

ほんの一瞬思い出すだけの存在。

決して好きにはなれなかった。

大切に思えたことなどない。

目の前にある父の死には、感情などないはずだ。

ただの患者の死に感情などない。

けれど胸に渦巻く感情がある。

惜しいなどとは思えない命。

けれど血の繋がりが叫ぶ。

切ることはできない関係。

だからこそ強い憎しみが渦巻いた。

愛されていないと気づく度に怒りを覚えた。

無視される度に悔しいと思った。

他人ではないのだ。

肉親で……。

親で……。

そしてふと思う。

そうか。

俺は愛されたかったんだ。

関心を持ってほしかったんだ。

最期の時を前に思い知る。

素直になる心。

涙が頬を伝う。

人の死に嘆いているのではない。

たった一人の父親の死に涙が流れるのだ。

「……おとうさま…っ?」

泣いているこちらに気づき、思わず口をついて出てしまった。
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