調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「っ……武……?」

母も気づき、死んだ名を呼ぶ。

「…あんたはいつも勝手だ。
俺や兄さんの事なんか考えた事もなかったろう?
どんな想いでいるのか考えた事もないだろ?」

今まで言えなかった言葉が次から次へと口をついて出る。

「どれだけ俺や兄さんがあんたを憎んでいたか……っ。
どれだけ苦しんだかっ。
あんたには分からないっ!
勝手に死ぬなよっ!」
「っお父様っ」

駆け寄って抱き寄せてくる娘。

怒りとぶつけきれない想いが爆発している。

掴みかかったらどれだけ気が晴れるだろう。

殴ることができたら。

いっそこの手で殺せたら。

膨らんでいく感情に流される。

止められない。

「ふざけるなっ!!
死ぬなんて許さないっ。
もっと苦しめよっ!!
思い知れっ!!」

はっと思った。

上がった息に驚く。

溜飲が下がっていく。

ゆっくりと息を吐く。

落ち着け。

こんなに取り乱すなんて。

言ったところで変わらない。

怒るだけ無駄なんだ。

この人がこちらが望んだ答えを用意するはずがないのだから。

とうに諦めていたじゃないか。

この人に何も望まないと決めた。

裏切られることは分かっていたから。

いちいち傷ついていられない。

期待しなければいい。

かつて、何度も自身に言い聞かせた言葉。

「……まな……た…」

何事か呟く父。

もはや話しなどないと場を立った時だった。

「御祖父様?」

娘がそっと問いかける。

「……まなっ……けし…」

聞き取れない。

冷め切った目で上から見下ろして部屋を出ようと歩き出す。

「待ってお父様っ。
聴いてください」

娘が呼び止める。

けれど振り返る気も起きない。

興味もない。
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