調導師 ~眠りし龍の嘆き~
構わず歩きだす。

その前に突然。

母が仁王立ちで進路を阻みに出た。

「聴いてやって。
武…。
最期なのよ……」
「……」

懇願する。

涙ながらに訴えられても心は靡かない。

これが十数年。

築き上げられた親子の姿だ。

冷え切った関係。

情など存在しないように。

愛されることを望んだ。

けれど応えられることはなかった。

一方的な想い。

どうすれば良かった?

こっちを見てと叫べば良かったのか?

俺を見てと……。

「どいてくれ」
「どきません」
「……」

母はこんなにはっきりとものを言う人だったろうか。

記憶にある母は、もっと大人しい人だったはずだ。

「……たけしっ…」

はっきりと呼ぶ父の声。

「御祖父様っ」

構わない。

母を押しやる。

一歩進む。

「今更呼ぶなっ」

腹が立つ。

今にも死にそうな声。

そんな声で呼ぶな。

こんな父は知らない。

こんな父の声は知りたくない。

「お待ちくださいっ。
お願いです。
聴いてください。
…お父様……」

目を閉じる。

お前を困らせたいんじゃない。

許せないんだ。

寛容になれないんだ。

こちらの声などお構いなしだった父。

妻の命を奪った人。

俺から何もかもを奪った人。

今更じゃないか。

もうすぐ死ぬ。
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