調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「くそっ。
くそっぉぉぉぉっ!!」

悔しい。

完全に勝ち逃げされた気分だ。

なぜ最期まで憎ませてくれない。

素直に憎まれ役でいろよ。

浮かばれないじゃないか。


妻の死を。

兄の死を。


何もかも中途半端だ。

この気持ちをどこにぶつければいいんだ。

「……お父様…」

そっと入って後ろから声をかけてきた娘が背を撫でる。

癒すように。

労わるように。

「くっぅっ……っ」

悔しさと怒りで涙が溢れる。

助けてくれ。

誰か、誰でも良いから答えをくれ。

どうすればいい。

最期の言葉なんて聞かなければよかった。

聞きたくなかった。

助けてくれ。

「お父様……。
ごめんなさい。
こんなにお父様が苦しまれるなんて…。
お父様の事。
わたくし分かっていなかったのですね……」

背中をさすりながら語りかけてくる。

「床に臥せるようになってから……。
御祖父様は、お父様に会いたいとおっしゃるようになりました…。
お父様の事を想っては泣いておられたのです……」

染み込むように語られる声。

沈黙。

構わず続ける。

「一人でいると、自然と思い出されるのはお父様の事だと…。
そして、何度も自問すると……。
どうして殺してしまったのか。
お父様から何を奪ってしまったのか。
一族の中にいたせいで分からなくなっていたのだとおっしゃった。
……御祖父様は、お父様の事を愛してらしたわ……」
「……」

そんな父は知らない。

愛を知ろうともしなかった父。

一族が全てだった。

忘れてしまいたい。

思い出したくもない。

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