専務が私を追ってくる!
「あれ?」
卵焼きが二切れ、なくなっている。
しまった、またやられた。
横を睨みつけると、勝ち誇ったような笑みで咀嚼している半裸の男。
「うん。うまいうまい」
「ちょっと!」
私が怒ると修が嬉しそうに笑う。
「残りはどうせ朝飯で食うからいいじゃん」
「良くないです。もう専務の朝ご飯、作るのやめますよ」
「すんませんでしたー」
謝っているのも口だけだ。
うちに来て以来、つまみ食いはほぼ毎日。
私にバレて怒られて、嬉しそうに謝るのもほぼ毎日。
何なんだ、この新婚カップルのようなやりとりは。
朝っぱらから無駄な労力は使いたくない。
一人静かにニュースや天気予報を見ながらやっていた頃は、もっと効率よく朝の支度が進んでいったのに、人ひとりと猫が2匹いるだけで作業が全然進まない。
これはきっと新たな試練だ。
修に正体が知れて抱えている問題が一つ減ったから、新しいのが降り掛かってきたのだ。
……そうとでも思わないとやってられない。