専務が私を追ってくる!
「だからちゃんと公表しようよ。俺たちの関係」
なるほど、奥様は諦めていないのか。
「今はスキャンダル禁止だってば。専属秘書と付き合ってるなんて、不謹慎に思われるんだから」
人間とは、他人事については下世話な話題ほど盛り上がるものだ。
巷には秘書モノのAVなんかもたくさんあるそうで、役員室に女性秘書と二人きりというシチュエーションだけで卑猥な想像をする人も多いらしい。
それに、私と付き合っていると知って、あの奥様がどんな顔をするかわかったもんじゃない。
「別にやましいことしてるわけじゃないし、いいじゃんなー、ミキ」
「みゃー」
「真面目にしてても勝手にそう思われちゃうの!」
悪い噂は誰かが思いつきで作ったデマでも、あっという間に広がってしまう。
そして広がってしまえば信じてしまう人も多くなる。
そんなリスクは最小限に減らしたい。
ていうか、やっと女子社員にイケメン専務だともてはやされ始めたところなのに、地味秘書なんかと付き合っていると知られたらガッカリされてしまうではないか。
男性社員からボンボンのバカ息子だと僻まれるのはもう避けようがないので、せめて女子社員からの人気はキープしておくべきだ。
修は変なところで察しがいいくせに、肝腎なところが鈍いと思う。
「怒った美穂ちゃんは怖いねー、ミカ」
「みゃー」
「優しい修くんの方が好きだもんねー」
「みゃーん」
「変なこと教えないでよ」
7月になって、ミキとミカは少しずつ猫らしく鳴けるようになってきた。
最近は歯が生えて、噛まれると少し痛い。
たまにケージからすごい音が聞こえてきて、何かと思ったら2匹でケンカをしていたりもする。
ちゃんと私と修を飼い主と認識しているようで、顔を見ると甘えたりミルクを求めてきたりして、ますますかわいい。