専務が私を追ってくる!
なぜ、彼女がここに。
部外者はこのフロアにすら立ち入れないはずだ。
彼女は滑らかで上品な動作で扉を閉め、艶のあるゆるふわボブを揺らして私に一礼する。
「突然お邪魔してすみません。私、長部由香と申します。雨宮社長の奥様のご紹介で伺いました」
いつかお見合い写真で見た、修の元彼女。
上品で涼しげなストライプのセットアップに、ストロー素材のクラッチバッグを持っている。
三十路にしては若作りだと思えるが、彼女には十分に似合っていた。
穏やかだったはずの心が、雄叫びを上げて暴れだす。
奥さまの紹介って、どういうこと?
この人とのお見合いは断ったんじゃなかったの?
「専務秘書の郡山と申します。奥様のご紹介と言いますと?」
白々しいけれど、知らないフリをしなければならない。
長部さんは緊張していた顔をふっと緩め、照れた表情になる。
女から見ても美しい彼女が、より魅力的に見えた。
「あの、実は私、今度彼とお見合いをする予定になっていたんです。だけど修さん、とてもお忙しいようなので、なかなか日程が合わないと言われて」
「え?」
なにそれ。
お見合い、断ってないじゃん。
忙しいのは本当だけど、適当にごまかして延期にしてるだけじゃん。
「埒が明かないから、かしこまった形でなくても、とりあえず会ってみたらいいじゃないということになって、奥様にここまで連れて来ていただいて……」
「そう……でしたか」