専務が私を追ってくる!
「いや、美穂はいい。この時間にできることは限られてるよ」
「でも!」
Tシャツを脱いだままの修が、ギュッと私を抱きしめた。
生肌が耳に触れて、彼の鼓動が速いことに気付く。
腕も少し震えている。
そうか、修だって怖いんだ……。
「今は眠って、体力温存して」
「体力?」
「朝になったら明日の予定は全部キャンセルの連絡。この事故はニュースになるだろうから、先方もわかってくれるとは思うけど、嫌な反応をしてくる人もいるはずだ。その他の仕事も美穂に任せる。事故が表沙汰になる分、会社……特に今俺が関わってる事業は打撃を受けることになるから、しばらくは帰れるかもわからない」
家の中だけれど、修は専務の顔をしていた。
「修くん……」
体が離れるとくっついていたところがヒヤッとした。
修は仕事用のシャツを着て準備を再開。
いつもと違う空気に、猫たちが敏感に反応する。
「みゃーんみゃーん」
「うるさくしてごめんね、大丈夫だよ」
私は作り置きして冷凍していた炊き込み御飯を温め直し、おむすびを作り、空きペットボトルに冷えたお茶を入れて、修に手渡した。
「ありがと。これなら車の中で食える」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
玄関の扉が閉まり、暫くしてプリウスの微かなエンジン音が聞こえた。
パラパラとタイヤが地面を踏みしめる音が聞こえなくなったところで、鍵を閉めた。