専務が私を追ってくる!
事故以来、社内では修や私を見る目が冷たくなった。
『事故は修が危険を顧みず利益を追求した結果だ』
夜行バス事業とは関係のない部署の人間は、誰が言い出したかもわからないこの噂を鵜呑みにしている。
跡取り息子のおぼっちゃまへの風当たりは、まだまだ強い。
修の就任以来ずっと一緒に仕事をしている観光事業課やバス事業部の社員は、噂がでたらめであることをわかっており、彼を支持してくれている。
社員全体のせいぜい1〜2%だけれど、とても心強い。
金曜日、夕方。
今日やるべき仕事を大体終えて、そろそろ退勤しようかという頃。
コンコン
柔らかいノック音がしたので、「どうぞ」と応答した。
「お疲れさま」
入ってきたのは、修の母であり社長夫人である、雨宮久美子だった。
「奥様!」
「連絡も入れず、急にごめんなさいね」
彼女が現れるときは、いつも急だ。
前に来たときだって連絡などなかった。
「いえいえ、大丈夫です。今日はどうされたんですか?」
彼女とて、自分の夫と息子が県外にいることは承知のはず。
つまり、この私に用があってここへ来たということである。