専務が私を追ってくる!

「実は、あなたにお願いがあるの」

お願いというだけあって、少し申し訳なさそうに眉を下げている。

威圧的な感じはしない。

「お願いですか? あ、どうぞおかけください。今お茶を持って参ります」

「ありがとう。悪いわね」

「しばらくお待ちください」

役員専用の給湯室でお茶を淹れ、部屋へ戻る。

ノックをして専務室の扉を開けた時、奥様は携帯を操作していて、私の顔を見るなりササッとそれをバッグへ収めた。

「失礼いたします」

お盆をテーブルの端に置き、茶托を奥様の前にセット。

布巾で湯飲みの底を拭って、茶托に乗せる。

「どうぞ」

「どうもありがとう」

彼女がじっと私を見ているから、全ての動作を吟味されているような気分である。

自分のお茶はマグカップに淹れてきた。

向かいの席に置き、私もソファーに腰掛ける。

「お待たせしました。それで、私にお願いというのは」

奥様はふふふと微笑んで、お茶を一口すすった。

「そうね、その前に、お礼を言わせてちょうだいね」

「お礼?」

「そうよ。あなた、修にちゃんとお見合い写真、渡してくれたでしょ。助かったわぁ」

「……恐れ入ります」

お見合いというキーワードに、私の胸がざわつき始める。

修は断ったが、見合いせざるを得なくなったと言っていた。

それはなぜなのか、私はまだ聞けていない。

< 200 / 250 >

この作品をシェア

pagetop