専務が私を追ってくる!
「実は、あなたにお願いがあるの」
お願いというだけあって、少し申し訳なさそうに眉を下げている。
威圧的な感じはしない。
「お願いですか? あ、どうぞおかけください。今お茶を持って参ります」
「ありがとう。悪いわね」
「しばらくお待ちください」
役員専用の給湯室でお茶を淹れ、部屋へ戻る。
ノックをして専務室の扉を開けた時、奥様は携帯を操作していて、私の顔を見るなりササッとそれをバッグへ収めた。
「失礼いたします」
お盆をテーブルの端に置き、茶托を奥様の前にセット。
布巾で湯飲みの底を拭って、茶托に乗せる。
「どうぞ」
「どうもありがとう」
彼女がじっと私を見ているから、全ての動作を吟味されているような気分である。
自分のお茶はマグカップに淹れてきた。
向かいの席に置き、私もソファーに腰掛ける。
「お待たせしました。それで、私にお願いというのは」
奥様はふふふと微笑んで、お茶を一口すすった。
「そうね、その前に、お礼を言わせてちょうだいね」
「お礼?」
「そうよ。あなた、修にちゃんとお見合い写真、渡してくれたでしょ。助かったわぁ」
「……恐れ入ります」
お見合いというキーワードに、私の胸がざわつき始める。
修は断ったが、見合いせざるを得なくなったと言っていた。
それはなぜなのか、私はまだ聞けていない。