専務が私を追ってくる!
今時お見合いなんて、庶民育ちの私には全然リアリティが感じられない。
心が荒んでいる私でも、結婚は好きな人とするものだと信じてやまなかった。
会社の利益のために、自分の立場のために、一生を添い遂げる人を誰かに押し付けられるなんてバカみたい。
修が専務でなければ、次期社長でなければ、きっとそんな事態にはならなかった。
「ほんとその通りだな。辞めちまうか、専務なんて」
修はそう言って、私を優しく抱きしめる。
「そうだよ。辞めちゃいなよ」
抱き返すと、彼の首元から彼のいいにおいがした。
もうさっきみたいに不快には感じない。
「長部家との縁談断ったから、どうせ来週クビになるかもしんねーし」
「そうだね……」
体を少し離し、お互いの顔を見合わせる。
強い視線を放つ深い二重まぶたの大きな瞳。
小振りだがまっすぐで高い鼻。
キュッと締まりのある、つややかな唇。
「でも、もうちょっと頑張ったら?」
「でも、もうちょっと頑張っていい?」
二人の声が見事に重なった。
ちゃんと気持ちが通じている気がして、えも言われない幸福感に包まれる。
私たちは返事の代わりにどちらからともなく唇を重ねた。