専務が私を追ってくる!
思わず息を飲む。
カウンターに立っている店員と目が合いそうになって、思わず柱に隠れた。
修がそこにいる。
やっぱり彼が待っているのは私だった。
全身が心臓になったのではないかというくらい、体の至る所がドクドクと脈を打っている。
怖い。
やっぱり会わずに帰ってしまおうか。
今ならまだ引き返せる。
ここまで来てもなお逃げようという、意気地の無い自分が情けない。
ピチャッ……
煮え切らない私を鼓舞するかのように、鼻の頭に雨粒が落ちた。
さっきまで小雨だったのが、本格的に降り始めている。
いつまでもここに突っ立っているわけにはいかない……よね。
私はグッと全身に力を込めて、覚悟を決める。
そして思いきってガラスの扉を開けた。
シャラララ——……
ドアベルが鳴って、心地よいボサノヴァのリズムに包まれる。
カウンター右端の男の背中を見つめながら、真っ直ぐに左端の席へ向かう。
「いらっしゃいませ」
椅子に座ってからは、簡単に顔が見えないよう、決して修の方は見ない。
スタッフからおしぼりを受け取り、一言。
「ワイン・クーラーください」