専務が私を追ってくる!
混乱している修は、一度私から視線を逸らし、ギュッと握った手で自分の頭をリズミカルに小突いた。
落ち着こうとしているようだ。
「いやいや、嘘だろ……こんな偶然、あるわけない」
私は彼の隣の席へ移動して、吸いかけのまま灰皿で燃え続けているタバコの火をもみ消した。
「私も始めはそう思いました」
修はまだ信じられないとばかりに私の顔をじっくり観察している。
先月買ったダテメガネを持ってくればよかっただろうか。
髪を結んでメガネをかければ、もっとわかりやすかったかもしれない。
「いつから俺だと気付いてたの?」
「専務と再会したその瞬間からです。社長室で。専務は私だとわからなかったようですね。だから、ずっと黙っているつもりでした」
修は悔しそうな顔をして、新しくタバコに火をつけた。
ふーっと斜め上へ吹き出された煙が、ライトに照らされてキラキラして見えた。
「……でも、俺が追いかけてる女が自分だとわかって、名乗り出たってわけか」
怒っているような口調だ。
私は彼を騙していたのだから、当然である。
「はい。モヤモヤした気持ちを抑えられませんでした」
私のワイン・クーラーが届いた。
乾杯もせずに一口。
緊張で喉がカラカラ、そして空きっ腹。
アルコールは急速に吸収されていく。