秋色紫陽花
「そうだよね、まだこんなの本気じゃないよね」
と、大きく息を吐いて。
壁際の本棚へと手を伸ばすと、視界に彼の手が飛び込んできた。
「どれ?」
ひょっこりと顔を覗かせて、私が取りたい本の辺りへと手を伸ばす。
「どれでもいい」
「どれでもいいじゃわからないだろう」
彼が本棚へと体を傾けた重みで、背中に触れたラグが僅かに軋む。ふわっとイグサの匂いが漂った。
「任せるよ」
本なんて、どれでもよかった。
ただ読むことができれば、ここで時間を潰すことができれば、それだけでいい。
決して口に出したりしないけど、台風が来るというのにひとりで家に居るのは心細いじゃない。
ひと通り本棚を見渡して、空を泳がせていた彼の手が止まる。
「任せるって言われても……、そろそろ送ってやろうか?」
イラッとする。
もしかして、彼はわかってて言ってるんじゃないだろうか。私がイラッとするのを面白がってるんじゃないだろうか。
「まだいいって、早く本取って」
放り投げた私の言葉に、彼が振り向いた。前のめりの体勢で見下ろす彼の視線が痛い。