秋色紫陽花
「早く帰らないと、本気になるぞ」
彼の声と雨音が静かに溶ける。
「まだ大丈夫だよ」
と答えるのと同時に、点けっぱなしのテレビから速報を告げるチャイムが聴こえた。きっと気象速報か何か、どこかで警報が発令されたとか。
起き上がろうとして捻った肩を、ぐいっと引き戻された。
再び背中にはラグの感触と鼻先を通り過ぎていくイグサの香り。さっきまで空を泳がせていた彼の右手が、私の右肩に乗っかってる優しい重み。
見上げた視界に彼の顔が影を落としてる。白いはずの天井が暗く見えるのは、彼じゃなくて雨のせい。
早く照明を点ければいいのに、なんて呑気なことを考えてる場合じゃない。
見下ろしてる彼の眼鏡が少しずれてるけど、今言うべきか……
いや、言うべきことじゃない。
懸命に意識を逸らそうとするのに、顔を中心に灯った熱は既に全身へと広がり始めていた。右肩に乗っかった彼の手から熱が伝わってしまいそうで、胸がぞわりとする。
彼が左手を挙げた。ずれた眼鏡を外してローテーブルの上の置くと、ゆっくりと降りてきた指が頬を撫でる。
輪郭をなぞっていた指が耳朶へと触れるから、とっさに顔を反らした。