神様修行はじめます! 其の四
信子長老は完全に力を失い、犬のように浅い呼吸を繰り返していた。
砂にまみれた頬も、袖から覗く手も、透けそうなほど青白い。
ほつれた黒髪がバラバラと乱れ落ち、悲壮さを増す。
もう彼女は、長く無い。
このままじゃ助からないのは、本人が一番分かっているだろうに。
なのにその指先は、望んだものを手に入れようと、足掻くようにジリジリ砂を掴む。
きっと命の燃え尽きる瞬間まで、諦めずに手を伸ばし続けるんだろう。
その執念ともいえる覚悟の強さが・・・あたしにはとても哀しかった。
決して私利私欲じゃない。彼女はそんな理由で、この戦いを挑んだんじゃない。
彼女は、決意するしかなかったんだ。
間違っていることを、「間違っている」と認めさせるために。
自分たちは決して、ゴミでも何でもない「普通」の存在だと認めさせるために。
自分たちだけが「普通」だと思い込み、よそ者を虐げ続ける神の一族たちの目を覚ますために。
それが彼女の真の望みだ。その望みの・・・
いったい、どこが過ちだろう。
その望みを抱くことの、何が過ちだというんだろう。
なのに・・・・・・
なのに彼女の手は、届かない。
命を懸けて望んだものに、その手が届くことは決してない。
なぜなら、私たちがその手を潰すから。
信じる物と、生きる形の違うあたし達がそれをしなければならないから。
そのことがあまりにも哀しくて、辛くて、あたしの目尻に涙が流れた。