神様修行はじめます! 其の四

信子長老がユラぁリと身を起こす。


あんな状況で、とても立ち上がる力なんてあるはずないのに。


限界を超えた体で、彼女は意思の力だけで動いていた。


バラバラに解けて乱れた黒髪。


ほとんど白目を剥いている、血走った凄惨な目。


色が抜けて、死人のようになってしまった皮膚の色。


大きく開けた口からは、是が非でも呼吸をしようとする音が、ごうごうと聞こえる。


砂と血にまみれた幽鬼のような姿は、まさに、壮絶のひと言。


これが信子長老の覚悟だ。


あたしは圧倒されて、その姿を見ているしかない。


彼女の指が、次の攻撃の指示を出すために動こうとするのを、黙って見ているしかない。


「こむすめぇ!」

絹糸がとっさに起き上がろうとして、大量に吐血して倒れる。


ろくに回復もしていないのに、さっき無理に力を使った反動がきたんだ。


「ぐ・・・!」

門川君の表情が歪み、印を組む指が震える。


絹糸の体を包んでいる白い輝きが、ぐんと光度を増した。


治癒術の威力を上げて、絹糸をなんとか助けようとしている。


そして浄火への術も、一切手が抜けない。


まるで綱渡りのような極限のコントロールは、門川君だからこそ。


まさにギリギリ限界待ったなしのこの状況で、ついに、信子長老の指が動いた。


血に染まった指が、成すすべの無いあたしへ向けられる。


「天、内・・・く・・・!」


絞り出すような門川君の悲鳴。


あたしを目掛け、一直線に槍のように襲ってくる一本の触手。


それを見ながら、完全に頭が真っ白なあたし。

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