社内恋愛なんて
トボトボと足取り重く、オフィスに向かって歩いていた。


出社する前の浮足立った気持ちはどこへやら。


脳内に一面に咲いたお花畑は、すっかり枯れ果てた。


 恋って恐ろしい。


冷静じゃいられなくなって、二人だけの世界に入り込んでしまう。


始まったばかりで社内恋愛の洗礼を浴び、つくづく社内恋愛の厳しさを知る。


 項垂れながら廊下を歩いていると、役員室から部長が出てきた。


途端に背筋が張って、心臓が躍動し始める。


 部長は一礼しながら扉を閉めると、ふうとため息を吐いた。


「部長!」


 私は慌てて駆け寄った。


私を見つけた部長の顔はパッと華やぎ、満面の笑みを浮かべる。


「湯浅、おはよう」


 そんな爽やかな挨拶している場合じゃないでしょうと言いたい言葉をぐっと堪え、周りに誰もいないことを確認する。


そう、ここは会社。


誰が見ているか分からないのだ。


「ちょっといいですか」


 部長を使用していないプレゼンルームに招き入れる。


二人きりになれた部長は少し嬉しそうで、先程まで呼び出しされていたとは思えない顔の輝きだ。
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