いと。
それからしばらく、私は忙しい日々を過ごしていた。
ウェディングの大型注文、季節商品のディスプレイの変更や新商品のチェック…。
次から次へとくる仕事と店長がスタッフを連れフランスへ買い付けに行ってしまって人出が足りないことも重なり、ヘトヘトで家に帰るとろくに食事も取らずに眠ってしまうこともあった。
「はぁ、疲れた~……」
この日もやっとの思いでシャワーを浴び、ベッドに倒れこむ。
………ようやく明日はお休みだなぁ。
久々の休みは連休で、やっとゆっくりできそうだった。
お料理…しなきゃなぁ。
極度の少食で総菜や弁当は買っても残してしまう私は休みの日に料理して小分けに冷凍することが多い。
料理は好きだ。学生時代はよく友人や恋人に振舞ったりした。
そういえば…ビーフシチュー美味しかったな。器も…返さなきゃ。
明日の夜、返しに行こうかな…
そんなことを考えていると、
ブーッ、ブーッ、ブーッ…
テーブルの上で携帯が震えた。
「誰だろ…って、多久島さんだ…。」
彼のことを考えていたところだというのにその本人から連絡があるなんて。
それにしても…なんで私ってばドキドキしてるのよ。もう。
ベッドに投げ出していた身体を起こし、通話ボタンをタッチする。
「…はい、眞城です。」
心の内を悟られないように、出来るだけ冷静に声を出した。
「あ、ごめん。休んでたんでしょ。」
気遣うような優しさが、その低くて甘い声で耳元に届く。
「いえ。辛うじて起きてましたよ。どうしましたか?」
「さっきお店に行ったんだ。そしたらもう帰ったって聞いたから。」
「…LINKに来たんですか?あ、私今日は早番で7時前にお店出たので…すみません。
急用でしたか?」
「急用…って言ったら会える?君に会いたくて行ったんだ。」
「…………………」
ー君に会いたくてー
その言葉は私の心臓をみごとに射抜いてしまう。でも私には今、恋をしてる余裕なんて…
「あれ以来顔見てないから……会いたくなった。一緒に少し飲もうよ。
…君の好きなカクテル作るよ。」
「………でも、お仕事じゃあ。」
「今日は定休。君のためにカギは開けておくから、来れたらおいで?待ってる。」