いと。
『待ってる』
そう言って一方的に通話を切ってしまった俺はズルイ。
わかってる。
彼女は顧客でもある俺の申し出を、無下に断ったりはしないだろう。
それでも…仕事の一環だと思われているとしても会いたいと思ってしまう魅力が、彼女にはある。
ーちりんー
ホラ、来た。電話してから40分。きっと急いで支度をして来たんだろう。
ひとり座っていたカウンター席から腰を上げ、彼女を迎える。
「いらっしゃい。待ってたよ。」
「あ…こんばんは。すみません。遅くなってしまって。」
「いや、全然。飲んで待ってたしね。」
間違っても邪魔が入らないよう扉にカギをかけ、彼女を俺が座っていたカウンターの隣の席に座らせて自分のグラスをカラリと持ち上げて見せる。
……ちょっと痩せたか?
間接照明の薄暗さの中でもそうだとわかる気がする。…そんなに忙しいのか。
「…たくさんとは言わないけど、ちゃんと食事してる?」
そこまで言って……気づいた。
俺の右手は無意識の内に彼女の手を握っている。
「……あ、あの。…手が………」
突然のことに、彼女の頬は染まってしまった。
……俺、酔ってる?
いや、ウイスキー一杯目でそんなわけない。
じゃあ、きっと………理由はひとつだ。
「ごめんね。俺の身体、勝手に君に触りたかったみたい。」
冗談めかして恥ずかしさを隠し、そう告げて手を離す。
頬の染まった彼女は、とても可愛かった。