いと。

お世話になりました。

キーを管理人さんに渡し、エントランスを出る。

「んー、傘…。」

傘すら処分してしまったことを思い出し、通りの向こうに見えるコンビニまで行こうと一歩を踏み出す。

「…っ!」


突然だった。


強い目眩、言うことを聞かない身体、崩れる膝。


倒れ…る……!


どうすることもできないまま反射的に目を瞑ると

「………っ!?」

横から伸びてきた腕にぐっと身体を支えられる感覚に驚き、思わずその腕を掴んでしまった。

「………大丈夫か?いきなり倒れんな。」


上から降ってきた声は………


戸澤さんだった。


まさか、この人に助けられるなんて。

「戸澤さん、なんでここ…に…。

…………離してください。大丈夫です。私に触らないで。」

掴んでしまった手を振り払い離れようと身体に力をこめたのに

「…なっ!? 離し…て!」

逆に更に力を入れて抱え込まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

鼻を掠めるのは、彼の香水だ。甘くて…少しスパイシーな香りがする。

「離したら倒れるだろうが。大人しくしろ。雨降ってるし、車に乗れ。」

そのまま有無を言わさず駐車場に停めてある高級車に向かって歩き出される。

「い……やだっ!」

渾身の力を込めて突き飛ばし、身体を離す。目眩はどんどん強くなっていって耐えきれずにへたり込んでしまったけれど
視線だけは、睨みつけるように彼に向けた。


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