いと。
それは全く予想しなかったことだった。
「……記憶を、消し…た?」
「そうだ。あんたの荷物は送り返したんだろう?…おそらく、それ以外残したものはなに一つない。
なにひとつ…な。
………どんな想いで決断したんだろうな。
あのキレイだった髪までバッサリ切って。
俺はただその空っぽになったマンションから出てきた彼女を拾った。
フラフラで、真新しいトランクひとつだけ抱えてたよ。
その中身は全部、数日前に用意していた新品だ。新しい道を進むための。
服も下着も化粧品や小物も全部。
………それだけだ。」
「………………。」
言葉が出なかった。訳がわからなかった。
綺麗さっぱり清算して姿を消した?嘘だろ?だって愛は俺がそばにいないと…。
「もういいだろ?俺は帰る。」
冷たい視線を伏せ、話を切り上げて帰ろうとする戸澤。
……愛は今、もしかしてこいつが……
「待てよ。…愛に会わせろ。あいつのことだ。結婚も断ってどこかに行くつもりだったんだろ?
今どこにいるんだよ。」
「………。」
ピタリと、その足が止まる。
やっぱり。愛は絶対こいつのところにいるんだ。
こいつには渡さない。
愛はたったひとりの………
「…あんた、最低だな。」