いと。

「……っ!」

頭が真っ白になる。後ろからまわるこの両腕は……薫さんだ。

「探したよ。アイちゃん。」

ーアイちゃんー

「…だからっ!私はアイちゃんじゃ…」

「なら話を聞く。ちゃんと理由があることくらい察しがつくよ。」

「だけど……っ。」

私を包んでいた腕が離れ、彼が正面にまわる。

その顔には、髪から滴る雨の雫が流れ落ちていた。

それを見て気づいた。冬だというのにコートも着ていない彼のシャツはびっしょりと濡れ、この冷たい雨の中私を探し回っていたことを物語っている。

「そんな顔しないで。名前ぐらいでピーピーいうほど俺、心狭くはないつもりだよ?」

「……薫さ…ん。」

「とにかく、俺のマンションすぐそこだから行こ。風邪引かせたくない。」

「わ…っ!私はいいです。薫さんは帰って下さい。薫さんこそ風邪ひいちゃいます。」

「その格好で電車乗る気?」

「………!」

「……君がそうするって言うならこのまま送るよ。ちゃんと自宅まで送り届ける。

電車に乗ってね。……どうする?」

冷たい雨。

濡れたシャツ。

滴る雫。

そこまで言われて、断るなんてできなかった。


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