いと。
足元が濡れるのも構わずに急ぎ足で旅館のそばに着くと、ちょうど女将が慌てた様子で車に乗り込もうとしていた。
「あの!」
急いで声をかけて駆け寄ると、彼女はオレの手に握られた手帳を見て一瞬驚いてから眉を顰め…観念したように溜息を零した。
そして、ジロリと視線をあわせ手を差し出してきた。
その表情はまるで子を守ろうとする母親のようで…愛がここで身を潜めていた理由がわかった気がした。
「…その母子手帳を置いて黙って帰りなさい。あの子のためにも見なかったことにして全て忘れて。」
そう。愛は……妊娠していた。
「ムリです。オレにはここに書いてある母親も子供も、幸せにする責任があります。
…愛の居場所をご存知なんですね?
そこに連れて行ってください。」