いと。
オレの言葉を聞いても、女将は首を横に振った。
「あのね、あなたの子供だからこそ彼女は死ぬほど悩んで苦しんだの。」
やっぱり。この人は事情を全て知っているんだ。知っていて愛を守っている。
俺に向けられる視線からは敵意すら感じた。
「だから……」
「愛とオレは姉弟ではありません。」
手帳をキュッと握り、真摯に向き合って伝えると棘の含まれたまっすぐな視線は一気に解けて狼狽した。
「…………え?」
「そう聞いたんじゃないですか?だからこそ愛はオレの前から消えたんです。
結ばれてはいけないと。
そうではなかったと………本当の事実がわかったのは彼女がいなくなって一ヶ月過ぎた頃でした。
父が漸く全てを話したんです。
オレは彼女が姿を消したとわかってからずっと…この2ヶ月探していました。
話を…させてください。
愛はもう、ひとりで苦しむ必要はどこにもないんです。」
そうだ。この母子手帳の父親の欄を、空欄にしておく理由はどこにもない。
「……………一緒にいらっしゃい。」