シャッターの向こう側。
 この会社の会長の名前は宇津木隆義。

 新年の挨拶にしか来ない創立者だけど、名前だけは知っている。

 つまりは、その会長の孫だから、皆は宇津木さんを敬遠してる……と。


 でもそれって、馬鹿みたい。

 会社に入れば、単なる一社員でしょう?

 宇津木さんのデザインをそう言う意味で贔屓してるって言うならともかく、コンクールだとかで入賞するのは宇津木さんの実力な訳でしょう?

 実力があるから、あの若さでもアートディレクターを務める訳でしょう?

 これが実力も実績もない、偉ぶった人がそうなら私もどうなの? って思うけど……

 いや……確かに偉そうなんだけど。

 ちょいちょい、なんやかんやと言われてはいるけれど……

 ちゃんとした実力があるから……言われても仕方がないなって所がある訳で。

 そりゃ~、たまにムカつくのは確かだけど、道理を外れてる訳でもなく……

 うまく言えないけど、個人とは違うところで敬遠されていないか?

 何だか白けた空気の中、仕事に戻っていく皆を眺め腕を組む。


「神崎ちゃん?」

 坂口さんの声に顔を上げる。

「今日、宇津木誘って飯でも食いに行こうか?」

 唇を尖らせて、坂口さんの笑顔を見た。

「別に、同情なんてしませんよ?」

「そんなことはしなくていいと思うよ?」

 そう言って、フロアの皆をちらっと眺める。

「……どうせ、仕事する気分でも無くなったでしょう?」


 確かに。


 何故だか少し、情けない気分だ。

 お皿をデスクに置いたまま、パソコンの電源を落として坂口さんを見上げた。

「行きますか」

「うん。宇津木のパソコンはそのままでいいかな?」

「いいと思いますよ。いつも付けっぱなしみたいですから」

「あ。そう」

 そう言って、私達はフロアを後にする。

 そして廊下の端で携帯をしまっていたらしい宇津木さんに、坂口さんがタックルをかけた。

「……っ!! 何だお前は!!」

「何だじゃなくて、飯食いに行こうぜ」

「あぁ? 何でそうなるんだよ」

「いいからいいから」

 訳が解らない、と言う顔に思わず笑った。
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